巻 02 · 02現場レポ · Iwate

岩手・北上山地、ICTハーベスタを入れた現場の三年

4,800 万円の機械を一台入れて、現場はどう変わったか。岩手・北上山地の中堅林業会社「北上フォレスト」(仮名)は、2023 年春に ICTハーベスタを導入した。三年が経ったいま、回収シナリオを所有者と一緒に検算しに行った。

著者
農林水産業DX研究所 編集部
公開日
2026.05.06
読了時間
読了 12 分

盛岡から車で東に一時間半。北上山地の北縁にあるその現場は、訪れた朝、薄霧に包まれていた。林道を奥へ進むと、エンジン音が聞こえてくる。樹高 18m ほどのカラマツ林の中で、橙色の機械が、一本の木を抱えるように倒し、枝を払い、瞬時に四本の丸太に切り分けていた。

ICTハーベスタ — 立木をつかんで伐倒し、枝払いと玉切り(一定の長さに切り分ける作業)までを一台でこなす、林業の最重要機械である。オペレーターはキャビンの中で、レバーを軽く動かしながら、画面に表示される丸太の本数と材積を確認している。

いま、この木で材積 0.42 立米。樹種カラマツ、3 m 材が二本、4 m 材が一本。昔は、伐倒したあと、地面で巻尺当てて、ノートに書いて、夕方事務所で集計してた。今は、切った瞬間に、これが事務所のパソコンに飛んでる。中村さん(45 歳、社歴 22 年)

014,800 万円の機械、内訳

北上フォレストが 2023 年に導入したのは、欧州メーカー製のホイール式 ICTハーベスタ一台、フォワーダ(運搬機)一台、合計のセットだ。

項目金額
ICTハーベスタ本体約 3,500 万円
フォワーダ約 1,800 万円
各種計測・通信オプション約 200 万円
教育研修・初期セットアップ約 100 万円
小計約 5,600 万円
補助金(林野庁・県・市町村合計)−約 1,600 万円
実質負担額約 4,000〜4,800 万円

02三年で、生産性はどう変わったか

数字で見ると分かりやすい。

指標導入前 (2022)導入後 3 年目 (2025)
1 日あたり伐採量約 25 m³/チーム約 80 m³/チーム
1 m³ あたり人工数0.42 人日0.15 人日
チーム編成4 名3 名
労災発生件数年 1〜2 件0 件(直近 24 ヶ月)

生産性は約 3 倍、人工数は約 1/3。チェンソーで一本ずつ倒していた頃と比べると、一日あたりの伐採量で約 3 倍に達した。しかし、ここで注意したいのは、「3 倍速くなった」ではなく「3 倍の現場が必要になった」ということだ。機械は休まない。フル稼働させなければ、減価償却が追いつかない。北上フォレストは、初年度に近隣の森林組合や民間所有者と新しい施業契約を 12 件、追加で結んだ。

03「経済的に回収できる」のか — 検算

ここからが、研究所として一番大事なところだ。4,800 万円の実質負担を、何年で回収できるのか。佐々木氏に、回収シナリオを開示してもらった(数字は本人了承)。

年間粗利増分(生産性向上による)+約 1,200 万円
年間人件費削減+約 400 万円
年間営業活動費の増加−約 200 万円
年間機械維持費(保守・燃料・部品)−約 350 万円
年間ローン返済額(5 年返済)−約 900 万円
正味の年間キャッシュフロー改善約 +150 万円

ローン返済期間中(最初の 5 年)は、キャッシュフロー的にはほとんどトントンになる。しかしローン返済が終わる 6 年目以降、年 1,000 万円以上のキャッシュフロー改善が見込まれる。「機械の耐用年数が 10 〜 12 年。だから、6 年目から 10 年目までの 5 年間が、本当に儲ける期間」と佐々木氏は分析する。

研究所の判断:実質負担 4,800 万円規模の ICT 化は、年間 6,000 m³ 以上の継続出材が見込める事業者にとっては経済合理性がある。逆に言えば、これを下回る規模の事業者は、機械の自社保有よりも、近隣事業者との共同利用や、施業の受託に回るほうが合理的になる可能性が高い。

04三年経って、見えてきた限界

機械があれば全部解決、ではないんです。一番足りないのは、結局、山に詳しい若い人。機械を扱える、データを読める、補助金の書類が書ける、所有者と話せる。この四つを兼ね備えた人が、業界全体でほとんどいない。ハーベスタは買えば手に入る。でも、それを 10 年使い倒せる『次の世代の現場監督』は、買えないんです。佐々木氏(社長、52 歳)

研究所として、この声は重く受け止めたい。林業 DX は、技術導入の話であると同時に、「次の世代をどう育てるか」の話でもある。次の連載で、この問題を別の角度から追う。

取材:2026 年 4 月/岩手県内。「北上フォレスト」は取材先の希望により仮名としている。財務数値は本人の許諾を得て公開している。

農林水産業DX研究所 編集部
Editorial

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