Sentinel-2 衛星画像と公開林相図を組み合わせ、47 都道府県の針葉樹/広葉樹比率を独自に集計した。結果は、地域差の大きさと、よく言われる「西高東低」の単純な構図が崩れていることだった。
01何を測ったか
EU が運用する Sentinel-2 衛星は、可視光と近赤外を 10m 解像度で、5 日に 1 度撮影してくれる。データは無償公開。これと、林野庁が公開する基準地林相図(県別 vector 形式)を重ね合わせ、研究所が独自に処理した。
処理は次の手順:
- 各県の森林面積範囲を切り出し(マスク)
- 2024 年 7 月の Sentinel-2 画像から NDVI(植生指数)と赤エッジバンドを抽出
- ランダムフォレスト(簡易な機械学習)で、各 10m ピクセルを「針葉樹」「広葉樹」「混交」「裸地・伐採跡」に分類
- 県別に集計
訓練データには、林野庁公開の標準林相サンプル点 12,000 件を使用。分類精度は cross-validation で約 82%。
02結果ハイライト
針葉樹率(全森林に占める針葉樹の割合)が高い県・低い県を並べると、こうなる。
| 順位 | 県 | 針葉樹率 |
|---|---|---|
| 1 位 | 宮崎県 | 76% |
| 2 位 | 大分県 | 71% |
| 3 位 | 高知県 | 68% |
| ... | ... | ... |
| 45 位 | 青森県 | 24% |
| 46 位 | 秋田県(広葉樹側) | 23% |
| 47 位 | 北海道 | 19% |
「西高東低」は概ね正しい。ただし、興味深いのは中間県の地形効果だった。
03「県内格差」のほうが大きい
研究所が驚いたのは、県内の地理的バラつきが、県間差を超えていたことだ。
例:長野県は針葉樹率の県平均が 52% だが、南信地方は 68%、北信地方は 41% と、内陸高地と日本海側で構造が違う。同じ「長野の山林」と言っても、購入する物件の場所で林相は劇的に異なる。
04yamabank 物件に重ねるとどう見えるか
研究所が衛星データを yamabank の物件位置に重ねた図(別添)を見ると、いくつか気づくことがある。
- 北海道・日高地方の物件(hokkaido-041):周辺 5km 平均で広葉樹率 81%。広葉樹資源として希少な水準
- 宮崎・霧島山麓の物件(miyazaki-005):周辺 5km 平均で針葉樹率 88%。地域全体がスギ・ヒノキ単純林に近い
- 長野・北アルプス麓(nagano-014):標高で林相が垂直に変わり、急傾斜で 1,000m 以上は広葉樹優占に切り替わる
「物件詳細ページの林相欄」は、現状、地主の自己申告 or 林相図ベースで書かれている。これに衛星由来の周辺林相データを追加すれば、買い手の判断材料が一段増える。
05衛星データの限界
正直に書いておく。
- 林齢は分からない:50 年生のスギも 80 年生のスギも同じ「針葉樹」として分類される
- 樹種の細分類は不安定:「スギ」と「ヒノキ」の区別は、可視光だけでは 50% 程度の精度しか出ない
- 下層植生は見えない:上層樹冠の話に限定される
これらは、ドローン LiDAR や地上計測と組み合わせない限り埋まらない情報の穴である。衛星は「マクロな構造を把握する道具」であって、「ミクロな施業判断の決定打」にはならない。
06三年後に向けて
Sentinel-2 の後継機 Sentinel-NEXT は、2027 年打ち上げ予定で、解像度 5m、再訪 2 日。さらに、日本のだいち 4 号(ALOS-4)は L バンド SAR で森林バイオマスを直接推定できる。
研究所の見立てでは、今後 3 年で、日本全国の森林炭素ストックを 10m 解像度で半年ごとに更新するような国レベルのデータ基盤が、ようやく現実的になる。これは J-クレジットの認証コスト構造を抜本的に書き換える可能性がある(巻 02 · 03 と接続)。
本稿の集計は、研究所が 2026 年 3 月に実施した独自処理結果に基づく。解析コードと再現可能なノートブックは、/dx/data で順次公開予定。