大型 ICT 機械の導入は、確かに生産性を上げる。しかし「小さく、長く、続ける」自伐型林業に、テクノロジーは入る余地があるのか。高知の自伐実践者と、林業工学の研究者に、研究所が机を挟んだ往復書簡をお願いした。
01そもそも、自伐型林業とは
自伐型林業(じばつがた)は、所有者本人または小規模な集団が、自前の小型機械と少人数で、長期にわたって森を管理し続ける林業のスタイルだ。大規模な業務発注を前提とする「請負型」と対比される。
特徴:
- 1〜2 人+小型重機(3 〜 4 トン級)で施業
- 林道は「壊れない作業道」を時間をかけて作る
- 短伐期型ではなく長伐期型。100 年単位で森を育てる
- 個人レベルで損益が回るよう、コストを徹底的に絞る
研究所が話を聞いたのは、高知県の山あいで自伐型を 12 年続けている田中健一さん(仮名・47 歳)と、林業工学を専門とする京都大学 大田研究室の大田周平准教授(仮名)。場所は田中さんの作業道脇の土場。三月の終わり、若芽が出始めた斜面で、丸太に腰掛けながらの会話だった。
02「DX、いりますか?」
研究所が最初に投げた質問は、率直にこれだった。
自伐型は「小さく、長く」を旨とします。年間の出材量が 200〜500 m³、機械投資は 500 万円以下、というレンジが多い。ここに、4,800 万円の ICT ハーベスタの話を持ってきても、桁が合わない。一方で、DX を「データを活用する」と広く取れば、自伐型こそ恩恵が大きい局面があるとも思う。— 大田
率直に言うと、最初の 10 年、僕は紙のノートで全部やってました。どの斜面をいつ切ったか、何 m³ 出たか、いくらで売れたか、全部手書き。ただ、ここ 2 年で考えが変わった。きっかけは「補助金の書類」。— 田中
03データが効くのは「現場の機械」ではなく「現場の周り」
田中さんが導入したのは、機械ではなく「クラウドの帳簿」だった。
- 出材実績を入力すると、自動で森林経営計画に紐づく
- 補助金申請のための帳票が自動生成
- 過去 10 年分の施業履歴が PDF で出せる
「これだけで、年間 40 時間の事務作業が減りました。40 時間あれば、もう一現場、施業に回れる」
これは重要な示唆だと思う。自伐型の DX は、ハーベスタや LiDAR のような「現場の機械」ではなく、「現場の周り」 — 経営計画、補助金、税務、相続、流通の方に効いてくる。業界が「林業 DX」と聞いて思い浮かべる絵と、自伐型に必要な絵は、少し違う。— 大田
04小型機械への ICT 流入
ただし、機械側にも変化はある。最近の 3 〜 4 トン級林内作業車には、廉価な GPS と簡易計測装置が標準搭載されはじめた。
| 項目 | 5 年前 | 2026 年 |
|---|---|---|
| 小型林内車(3 トン級)の標準装備 | GPS なし | GPS + 高度計 + 簡易材積計 |
| データの出力 | 紙にメモ | CSV / Bluetooth → クラウド |
| 価格レンジ | 380 〜 450 万円 | 420 〜 530 万円(差分 40 〜 80 万円) |
「40 万円高くなった分、データが取れるようになった。これは僕の場合、2 年で元が取れた」と田中さん。ハーベスタを買えない事業者でも、こうした周辺ハードウェアからデータインフラに乗ることができる。
05ドローン、自伐型にとってのコスト
ドローン測量は自前では持たない。年に 1 回、地域の林業組合に頼んで、自分の山だけ撮ってもらう。
- 単発撮影:1 回 4 〜 8 万円
- 写真測量による樹高・本数密度の把握
- 5 年に 1 度、施業計画見直しのタイミングで実施
これでよいんですよ。LiDAR まで持ち出さなくても、写真測量レベルで自伐型の意思決定は十分にできる。むしろ「測りすぎ」が、自伐の哲学に反する場合もある。自伐型は「森と長く付き合う」ことが目的で、最適化の極限を目指す経営ではない。— 大田
06J-クレジット、自伐型単独では難しい
研究所が組んだ J-クレジット記事(巻 02 · 03)で示したように、20 ha 単独では赤字に近づく。田中さんの所有・受託面積は約 45 ha。
単独申請は最初から諦めてました。地域の自伐型ネットワーク 6 戸で、合計 280 ha を束ねて、自治体プロジェクトに乗っかった。これで認証コストが 1/6 になった。— 田中
自伐型は、個別最適と地域最適の両方を見ないと回らない。J-クレジットは典型例で、「個人で持つには重すぎる、しかし地域で組めば軽くなる」コストの代表例です。— 大田
07教育・継承の問題に DX は効くか
田中さんが今、もっとも気にしているのは、後継者の問題だ。
自伐型は、技術の継承が一番難しい。林道のつけ方ひとつ、20 年の経験で身につく感覚です。これを次の世代にどう渡すか。— 田中
実はここに、DX の「映像と空間データ」が効く可能性がある。360 度カメラで林道工事の過程を撮り、ドローンで前後の地形を測る。10 年後にその記録を見直せば、なぜそこに道を引いたかが、空間的に分かる。「暗黙知」を「半明示知」に翻訳する装置として、ハードウェアは確実に安くなってきている。— 大田
08結論 — 自伐型に必要な DX は、リーズナブルである
研究所として、対談を通じて整理できた論点を残す。
- 自伐型に必要な DX は、4,800 万円の機械ではなく、月数千円のクラウド帳簿である
- GPS・計測装置の標準化で、小型機械側からもデータが取れはじめている
- J-クレジットは地域で束ねれば自伐型でも回る
- 空間データは、技術継承の補助線として効く可能性がある
「自伐型 × DX」は両立するか。答えは「両立できる、ただし、DX の中身を選び直せば」だ。
林業 DX の話が、いつも大手林業会社の話になってしまうのは、業界としてもったいない。日本の山林の所有者の 8 割は、20 ha 以下の小規模所有者です。ここに届く DX を、誰かが書かないといけない。— 田中
研究所、その役、引き受けてくれませんか。— 大田
取材:2026 年 3 月/高知県内。対話形式に再構成しているが、発言の趣旨は本人確認済み。所属・年齢は仮名表記。