巻 02 · 04対談 · 自伐型

自伐型林業 × DX は両立するか — 高知の現場から

大型機械では桁が合わない、しかし「現場の周り」の DX には十分入る余地がある。高知の自伐実践者と林業工学の研究者に、机を挟んだ往復書簡をお願いした。

著者
農林水産業DX研究所 編集部
公開日
2026.04.22
読了時間
読了 16 分

大型 ICT 機械の導入は、確かに生産性を上げる。しかし「小さく、長く、続ける」自伐型林業に、テクノロジーは入る余地があるのか。高知の自伐実践者と、林業工学の研究者に、研究所が机を挟んだ往復書簡をお願いした。

01そもそも、自伐型林業とは

自伐型林業(じばつがた)は、所有者本人または小規模な集団が、自前の小型機械と少人数で、長期にわたって森を管理し続ける林業のスタイルだ。大規模な業務発注を前提とする「請負型」と対比される。

特徴:

  • 1〜2 人+小型重機(3 〜 4 トン級)で施業
  • 林道は「壊れない作業道」を時間をかけて作る
  • 短伐期型ではなく長伐期型。100 年単位で森を育てる
  • 個人レベルで損益が回るよう、コストを徹底的に絞る

研究所が話を聞いたのは、高知県の山あいで自伐型を 12 年続けている田中健一さん(仮名・47 歳)と、林業工学を専門とする京都大学 大田研究室の大田周平准教授(仮名)。場所は田中さんの作業道脇の土場。三月の終わり、若芽が出始めた斜面で、丸太に腰掛けながらの会話だった。

02「DX、いりますか?」

研究所が最初に投げた質問は、率直にこれだった。

自伐型は「小さく、長く」を旨とします。年間の出材量が 200〜500 m³、機械投資は 500 万円以下、というレンジが多い。ここに、4,800 万円の ICT ハーベスタの話を持ってきても、桁が合わない。一方で、DX を「データを活用する」と広く取れば、自伐型こそ恩恵が大きい局面があるとも思う。大田
率直に言うと、最初の 10 年、僕は紙のノートで全部やってました。どの斜面をいつ切ったか、何 m³ 出たか、いくらで売れたか、全部手書き。ただ、ここ 2 年で考えが変わった。きっかけは「補助金の書類」。田中

03データが効くのは「現場の機械」ではなく「現場の周り」

田中さんが導入したのは、機械ではなく「クラウドの帳簿」だった。

  • 出材実績を入力すると、自動で森林経営計画に紐づく
  • 補助金申請のための帳票が自動生成
  • 過去 10 年分の施業履歴が PDF で出せる

「これだけで、年間 40 時間の事務作業が減りました。40 時間あれば、もう一現場、施業に回れる」

これは重要な示唆だと思う。自伐型の DX は、ハーベスタや LiDAR のような「現場の機械」ではなく、「現場の周り」 — 経営計画、補助金、税務、相続、流通の方に効いてくる。業界が「林業 DX」と聞いて思い浮かべる絵と、自伐型に必要な絵は、少し違う。大田

04小型機械への ICT 流入

ただし、機械側にも変化はある。最近の 3 〜 4 トン級林内作業車には、廉価な GPS と簡易計測装置が標準搭載されはじめた。

項目5 年前2026 年
小型林内車(3 トン級)の標準装備GPS なしGPS + 高度計 + 簡易材積計
データの出力紙にメモCSV / Bluetooth → クラウド
価格レンジ380 〜 450 万円420 〜 530 万円(差分 40 〜 80 万円)

「40 万円高くなった分、データが取れるようになった。これは僕の場合、2 年で元が取れた」と田中さん。ハーベスタを買えない事業者でも、こうした周辺ハードウェアからデータインフラに乗ることができる。

05ドローン、自伐型にとってのコスト

ドローン測量は自前では持たない。年に 1 回、地域の林業組合に頼んで、自分の山だけ撮ってもらう。

  • 単発撮影:1 回 4 〜 8 万円
  • 写真測量による樹高・本数密度の把握
  • 5 年に 1 度、施業計画見直しのタイミングで実施
これでよいんですよ。LiDAR まで持ち出さなくても、写真測量レベルで自伐型の意思決定は十分にできる。むしろ「測りすぎ」が、自伐の哲学に反する場合もある。自伐型は「森と長く付き合う」ことが目的で、最適化の極限を目指す経営ではない。大田

06J-クレジット、自伐型単独では難しい

研究所が組んだ J-クレジット記事(巻 02 · 03)で示したように、20 ha 単独では赤字に近づく。田中さんの所有・受託面積は約 45 ha。

単独申請は最初から諦めてました。地域の自伐型ネットワーク 6 戸で、合計 280 ha を束ねて、自治体プロジェクトに乗っかった。これで認証コストが 1/6 になった。田中
自伐型は、個別最適と地域最適の両方を見ないと回らない。J-クレジットは典型例で、「個人で持つには重すぎる、しかし地域で組めば軽くなる」コストの代表例です。大田

07教育・継承の問題に DX は効くか

田中さんが今、もっとも気にしているのは、後継者の問題だ。

自伐型は、技術の継承が一番難しい。林道のつけ方ひとつ、20 年の経験で身につく感覚です。これを次の世代にどう渡すか。田中
実はここに、DX の「映像と空間データ」が効く可能性がある。360 度カメラで林道工事の過程を撮り、ドローンで前後の地形を測る。10 年後にその記録を見直せば、なぜそこに道を引いたかが、空間的に分かる。「暗黙知」を「半明示知」に翻訳する装置として、ハードウェアは確実に安くなってきている。大田

08結論 — 自伐型に必要な DX は、リーズナブルである

研究所として、対談を通じて整理できた論点を残す。

  • 自伐型に必要な DX は、4,800 万円の機械ではなく、月数千円のクラウド帳簿である
  • GPS・計測装置の標準化で、小型機械側からもデータが取れはじめている
  • J-クレジットは地域で束ねれば自伐型でも回る
  • 空間データは、技術継承の補助線として効く可能性がある

「自伐型 × DX」は両立するか。答えは「両立できる、ただし、DX の中身を選び直せば」だ。

林業 DX の話が、いつも大手林業会社の話になってしまうのは、業界としてもったいない。日本の山林の所有者の 8 割は、20 ha 以下の小規模所有者です。ここに届く DX を、誰かが書かないといけない。田中
研究所、その役、引き受けてくれませんか。大田

取材:2026 年 3 月/高知県内。対話形式に再構成しているが、発言の趣旨は本人確認済み。所属・年齢は仮名表記。

農林水産業DX研究所 編集部
Editorial

yamabank が運営する、日本の一次産業のデジタル化を現場の解像度で記録するための編集部。寄稿・取材依頼はお問い合わせください。